研究センター

慶友骨関節疾患センター

センター長 岩本潤
副センター長 加藤啓祐

活動の背景

平成28年度国民生活基礎調査によると(厚生労働省: 平成28年 国民生活基礎調査の概況:統計表)、高齢者において介護が必要となる原因疾患として、認知症(18.0%)、脳血管障害(16.6%)、高齢による老衰(13.3%)、骨折・転倒(12.1%)、関節疾患(10.2%)、心疾患(4.6%)、パーキンソン病(3.1%)などがあります。高齢者において骨・関節疾患(あわせて22.2%)は要介護状態を惹起し、健康寿命を縮め、社会保障費を増大させます。

高齢者に頻度の高い運動器疾患(骨・関節疾患)として、変形性膝関節症や骨粗鬆症が挙げられます。いずれも「運動器の障害による移動機能の低下した状態」と定義される「ロコモティブシンドローム(和文:運動器症候群)」(日本整形外科学会)の原因となります。わが国(百寿社会)の課題は「健康寿命の延伸」であり、「人生100年時代」を生き抜くためには、骨・関節を中心とした運動器の健康が重要です。したがって、これらの骨・関節疾患に対する系統的な治療が求められています。以上のことを考慮に入れて、慶友骨関節疾患センターでは、主として、変形性膝関節症に対する保存療法と骨粗鬆症に関連する骨折抑制のための治療を行っています。

変形性膝関節症の治療

変形性膝関節症とは、「膝関節における骨の表面を覆っている関節軟骨が摩耗したために滑らかな関節運動が妨げられ、運動時痛・歩行時痛を生じる疾患」です。単純X線像では、関節裂隙の狭小化や骨棘などがみられます(図1)。変形性膝関節症になりやすい要因として、加齢(50歳以上)、女性、肥満、O脚、膝の酷使などが挙げられます。変形性膝関節症に対する治療として、保存療法と手術療法があります。保存療法には、教育、減量、歩行補助具、運動療法(中臀筋・大腿四頭筋強化訓練)、鎮痛薬(経口、貼付製剤)、ヒアルロン酸注射などがあり(図2)、保存療法に抵抗する場合には、手術療法を検討するため、慶友人工関節センターにコンサルトしています。

図1. 膝関節単純X線像
【図1.膝関節単純X線像】
図2. 変形性膝関節症の保存療法
【図2.変形性膝関節症の保存療法】

骨粗鬆症の治療

骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義され(NIH Consensus Statement 2000)、閉経後女性に多発します。骨粗鬆症の四大骨折として脊椎椎体骨折、大腿骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位部骨折が挙げられます(図3)。特に、脊椎椎体骨折と大腿骨近位部骨折は、死亡率をも高めることは知られています。

骨粗鬆症の治療(骨折の抑制)では、栄養指導、薬物治療、運動療法は三位一体として重要です(図4)。骨粗鬆症患者に対しては、飲水励行と栄養指導(カルシウム、ビタミンD、ビタミンK摂取)のもと、主としてアレンドロネート(週1回経口製剤)、リセドロネート(月1回経口製剤)、イバンドロネート(月1回静注製剤)、ゾレドロン酸(年1回の点滴製剤)などのビスホスホネート製剤(骨吸収抑制薬)あるいはデノスマブ(抗RANKL抗体:骨吸収抑制薬)とアルファカルシドールやエルデカルシトールなどの活性型ビタミンD3製剤の併用で治療を行っています。必要に応じて、エルカトニン(カルシトニン製剤)やメナテトレノン(ビタミンK2製剤)も使っております。新鮮骨折患者に対しては、二次骨折のリスクが高いため(Imminent fracture riskといいます)、骨形成促進薬であるテリパラチドやロモソズマブで治療を開始し、ビスホスホネートやデノスマブなどの骨吸収抑制薬で治療を継続する逐次療法を行っています。骨密度、骨代謝マーカー、腎機能、血清カルシウムなどを定期的に検査しています。さらに、慶友健康寿命延伸センターとも連携し、運動教室も行っています。

また、骨粗鬆症看護外来を併設し、採血時やビスホスホネート静注・点滴時、テリパラチド・ロモソズマブ、デノスマブ注射時に、看護師が治療の必要性、検査スケジュール、副作用対策などを説明し、さらに骨粗鬆症の栄養指導・運動療法・薬物治療などについて解説されているパンフレットを渡して教育も行い、治療継続率向上に努めています。

図3.骨粗鬆症の四大骨折
【図3.骨粗鬆症の四大骨折】
図4.骨粗鬆症の治療
【図4.骨粗鬆症の治療】

活動の目標

変形性膝関節症に対しては、運動療法やヒアルロン酸注射などの保存療法の効果は比較的高いため、これを継続するとともに、手術が必要な患者では、手術療法のタイミングの逃さないよう、慶友人工関節センターとの連携を強化していきます。

骨粗鬆症に対しては、治療率と治療継続率の向上が大きな課題です。骨粗鬆症治療薬には骨折リスク低下率が概ね50%と優れた骨折抑制効果があるため、必要な患者に対しては、治療を行う必要があります。今後は、骨粗鬆症リエゾンサービスや運動教室を行っている慶友健康寿命延伸センターとも連携し、外来診療を充実させ、骨粗鬆症の治療率と治療継続率の向上に努め、今後ますます発生が増加する見込みとされる骨粗鬆症に関連する骨折抑制に寄与していくと同時に、骨粗鬆症診療に関わるメディカルスタッフ(看護師、メディカルアシスタント、薬剤師、理学療法士、作業療法士、健康運動指導士、栄養士、放射線技師、ソーシャルワーカー、医療クラークなど)の医療従事者としてのスキルアップに努めていきます。

最後に、より良い医療を導き出するために、医師とメディカルスタッフがチームを組んで臨床研究を推進していくとともに、地域のみなさまに、安全で質の高い医療を提供できるよう職員の教育・育成に尽力し、医療技術と療養環境を向上させ、「健康寿命の延伸」に取り組んでいきます。