研究センター

運動器再生医療センター

近年、運動器の再生医療は急速に発展してきています。その代表的な治療法はPRPと呼ばれる多血小板血漿を用いる治療法です。この治療は保険適応となっておらず、自己負担での治療となりますが、従来の注射や投薬、リハビリテーションで治療することができず手術になっていた方のための新しい選択肢となってきています。

センター長 古島弘三船越忠直

PRP治療とは?

PRP治療とは

PRP治療とは、患者様ご自身の血液を、高速回転による遠心力を利用した分離装置(遠心分離器)にかけ、血液の成分(赤血球・白血球・血漿など)を分離することによって多血小板血漿(PRP)を調製し、PRPだけを分離し濃縮して患部の治療に利用する方法です。

PRPとは?

PRPとは、Platelet-Rich Plasmaを略した名称です。日本語では多血小板血漿と呼ばれていて、血小板の濃縮液を活性化したものを指しています。血液1mm3当りに10万~40万個含まれる血小板は、血管が損傷したとき損傷した場所に集まって止血をするのですが、その際に多量の成長因子を放出します。この成長因子には、組織修復のプロセスを開始する働きがあります。

PRP治療に期待できること

ご自身のPFC-FD(血小板由来成分濃縮物)を用いて、自己修復力を活性化させることがこの治療の目的になります。自己修復力を活性化した結果、以下のような効果が期待できます。

  • ケガ、傷の修復速度の向上
  • 損傷後、治りにくくなった部位で、再度治癒プロセスの活性化
  • 組織の硬さや柔軟性を元の状態に近づける
  • 痛みの感じ方を変化させる

PRPに含まれる主な成長因子とその働き

血小板由来成長因子
(PDGF-aa, PDGF-ab, PDGF-bb)
細胞の複製を刺激します。
血管形成・上皮形成・肉芽組織形成を促進します。
形質転換成長因子
(TGF-β1, TGF-β2)
細胞外マトリックス形成を促進します。
骨細胞の代謝を調節します。
血管内皮成長因子
(VEGF)
血管形成を促進します。
線維芽細胞増殖因子
(FGF)
内皮細胞および線維芽細胞の増殖を促進します。
血管形成を刺激します。

PRP治療とは

PRP治療のメリット・デメリット

治療のメリット
  • 自己修復力を用いているので、自然な形で修復が期待できます。
  • 自己修復が難しいと言われる組織でも、修復を促すことができます。
  • 何度でも受けることができます。
治療のデメリット
  • 社会保険、国民健康保険など医療制度上の保険で受けることはできません。
  • 自己修復力に依存するため上手く修復プロセスが働かないことがあります。
  • 痛みや炎症(熱感、赤み、腫れ)を伴うことがあります。
  • 感染症を起こしている場合は治療できません。
  • 採血部、注入箇所の一時的な痛み、皮下出血の可能性があります。
  • 採血部、注入箇所に感染症が起こる可能性があります。

当院の実績

PRP治療は2020年度より開始し、PRP治療を受ける方は年々増加しています。

  2020年 2021年 2022年 2023年
実施数 21 39 50 82

 

PRP治療を実施した疾患

  • 肘関節尺側側副靱帯損傷(肘の内側の靱帯損傷)
  • 変形性膝関節症
  • アキレス腱炎
  • 肘関節外側上顆
  • 肘関節内側上顆炎
  • 足関節捻挫
  • 筋損傷(いわゆる肉離れ)

当院で行うことができるPRP

PRP(ジンマーバイオメット社製) 筋・腱付着部に注入するPRPです。
PRP(アースレックス社製) 変形性膝関節症など関節内に注入するPRPです。
PFC-FD(セルソース社製) PRP成分を加工しフリーズドライにします。
1回の採血から2〜6回分が納品されます。複数回の注入が可能です。

治療の流れ

PRP(ジンマーバイメット社製)

PRP
※すべての治療は当日中に完了します。

採血 1キット約26~52mLの血液を採取します。
PRP分離 採取した血液を厚生労働省管轄の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)で人への治療に使用することが認められた医療機器であるPRP療法用の遠心分離機で遠心分離しPRPを作製します。
注射 超音波で正確な損傷部位を確認しなから穿刺し、注入していきます。

PRP

PRP(アースレックス社製)

PRP
※すべての治療は当日中に完了します。

採血 1キット約15mLの血液を採取します。
PRP分離 採取した血液を厚生労働省管轄の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)で人への治療に使用することが認められた医療機器であるPRP療法用の遠心分離機で遠心分離しPRPを作製します。
注射 超音波で正確な損傷部位を確認しなから穿刺し、注入していきます。

PRP

PFC-FD(セルソース社製)

PFC-FD
※採血から施術まで3週間を必要とします。

採血 血液を50mL静脈より採取します。
加工依頼 セルソース株式会社に血液を搬送し、PFC-FDを作製します。
納品 PFC-FDの作製には3週間を要します。PFC-FDは2回分もしくは6回分が納品されます。
注射 1回の注射について1回分を使用して注入します。

PFC-FD

治療費

PRP治療は保険診療ではありません。

PRP(ジンマーバイメット社製) 一般の方:1回70,000円
プロ選手は要相談
PRP(アースレックス社製) 1回20,000円
PFC-FD(セルソース社製) 一般の方:90,000円
プロ選手は要相談
PFC-FD2.0(セルソース社製) 一般の方:130,000円
プロ選手は要相談

【PFC-FDとPFC-FD2.0】
PFC-FD2.0は血漿成分が従来品(PFC-FD)よりも多く含まれます。従来品よりも自己修復力が強く活性化されることが期待されます。

PRP治療をご希望される方へ

PRPの治療に対応できる医師が限られています。
受付にてPRP治療を希望する旨をお申し付けください。
ご来院当日の施術はできない場合があります。あらかじめご了承ください。

肘関節尺側側副靱帯損傷に対するPRP治療について

PRP注入後の投球プログラム

PRP注入後の投球プログラム

PRPによる肘関節尺側側副靱帯損傷の競技復帰率

PRP治療を行った48名(平均年齢17.9歳)

復帰レベル 割合
損傷前の競技レベルパフォーマンスで復帰 48%
低い競技レベル、パフォーマンスで復帰 19%
レクリエーションレベルで復帰 8%
どのレベルでも復帰できない 25%

元通り復帰できた方は48%、多少の痛みがあるが復帰できた方は19%であり、合計で67%の方は手術をせずに復帰することが可能でした。

超音波によるPRPの効果判定(肘関節尺側側副靱帯損傷)

当院では超音波を用いて血流速度を測定し、PRPの効果判定を行っています。またMRIも含め修復状態を評価し、今後の治療方針を検討します。

PRP治療によって修復された肘関節尺側側副靱帯損傷(MRI)

MRI